非対称細胞分裂に関する新しい知見 |
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松崎文雄グループディレクター(非対称細胞分裂研究グループ)らは、細胞が不均等な分裂によって大きさの異なる娘細胞を生み出すメカニズムに新たな知見を加えた。細胞分裂は細胞が増殖する手段であると同時に、1つの細胞が異なる大きさや性質をもつ2つの細胞を生じる手段でもある。例えば、多くの生物種で受精卵は不均等に分裂することが知られているし、幹細胞は分裂によってより高度に分化した細胞を生じる。このように構造や機能の異なる娘細胞を生じる細胞分裂を非対称細胞分裂と呼び、多細胞生物が多様な細胞を生みだす上で重要な役割を果たしている。
これまでに細胞分裂に先立って細胞の一方に局在し、一方の娘細胞だけに分配される分子がいくつか知られていた。これらの分子は運命決定因子として働くため、それぞれの娘細胞に異なった性質を与える。しかし、細胞の大きさの非対称性を決定付ける分子機構は現在まで明らかでなかった。
非対称細胞分裂研究グループの布施直之らは、ショウジョウバエの神経幹細胞を用いた研究から、娘細胞の大きさの非対称性を司るのは、細胞内のシグナル伝達を制御するタンパク質の一種、Gタンパク質である事を発見した。この研究成果は米科学誌Current Biologyに発表された(Curr Biol. 2003 May 27;13(11):947-54.)。ショウジョウバエの神経幹細胞は非対称分裂によって神経幹細胞を複製すると同時に、より分化の進んだ小さな神経母細胞を姉妹細胞として生じる。神経母細胞が神経幹細胞より小さくなるのは、分裂に先立って非対称な紡錘体が形成されるためであることがこれまでに分かっていた。布施らはGタンパク質を構成するGβと呼ばれるサブユニットを除去すると、紡錘体が対称的に形成され、結果としてほぼ同じ大きさの2つの娘細胞を生じることを明らかにした。一方で、Gβサブユニットを過剰発現すると小さな紡錘体が形成されることから、Gβは紡錘体形成を抑制する役割をもつ事が示唆される。興味深いことに、Gβサブユニットを欠いたために対称な分裂を行っても、細胞運命の決定因子は一方の娘細胞に正常に不等分配される。この結果は細胞運命の非対称性と細胞の大きさの非対称性はそれぞれ独立したメカニズムによって制御されている事を示唆している。また、Gβサブユニットに変異をもつショウジョウバエは神経系に異常をきたすことから、細胞の大きさ自体が神経幹細胞の機能に重要であると考えられる。神経幹細胞が多様な神経細胞を形成するメカニズムはヒトを含む高等動物でも基本的に共通であると考えられる事からも、今回の成果は今後の神経発生の研究に重要な示唆を与えている。
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