αNカテニンがシナプスの安定性を制御する |
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神経ネットワークは、神経細胞同士が数億ものシナプスを介して電気化学的な信号伝達を行う事で成立している。シナプスは軸索と樹状突起の接合部位であるが、樹状突起は接合部位でさらに微細な樹状突起棘を形成している。これらの樹状突起棘は非常に動的で、神経の生理的活動に対応して形態や安定性を変化させることが知られている。
安部健太郎研修員(京都大学大学院生命科学研究科博士課程;高次構造形成研究グループ、竹市雅俊グループディレクター)らは今回の研究で、αNカテニンがシナプス形成のダイナミクスに関与していることを明らかにした。αカテニンはカドヘリンの細胞内ドメインとアクチン細胞骨格をリンクし、細胞接着に重要な働きをもつ分子として知られる。安部らは、マウスの神経系に特異的なαカテニンであるαNカテニンが、樹状突起棘の運動性と安定性に関与していることを Nature Neuroscience の4月号で報告した。
以前の研究により、動的な糸状仮足が安定したマッシュルーム様の構造に成長することで樹状突起棘が形成されることが明らかにされていた。αNカテニンを欠損させたマウスの神経細胞では、形成された樹状突起棘からも糸状仮足の出現と消失が頻繁に起こり、安定なシナプスの形成が阻害された。一方で、αNカテニンを過剰発現させた場合は、樹状突起棘の数が増大しマッシュルーム様の構造が若干拡大した。これらの結果は、αNカテニンの発現レベルが樹状突起棘の安定性と連動していることを示している。
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αNカテニンの過剰発現させた海馬神経細胞(右)では、コントロール(左)と比較して樹状突起棘の過剰形成がみられた。 |
樹状突起棘の形態はシナプスの可塑性にも関与していると考えられている。今回彼らは、海馬神経の樹状突起棘を糸状仮足に戻す効果のある神経遮断薬テトロドトキシン( TTX )と、 GABA 阻害因子で神経を活性化するビキュキュリンを用いて、αNカテニンと神経活性の関係を解析した。その結果、 TTX の投与はシナプス部位におけるαNカテニンの濃度を下げる事が明らかになった。しかし、全体の発現量はほぼ維持されていることから、 TTX の投与はα N カテニンの局在に影響を与えたといえる。
一方で、ビキュキュリンで処理した場合、αNカテニンの発現量が若干増加すると共に、シナプス部位における濃度が上昇した。次に、 TTX 処理した際の樹状突起棘の形態変化と、αNカテニンの濃度低下との因果関係を調べるために、αNカテニンを過剰発現する海馬神経を用いて TTX の効果を検証した結果、 TTX に対する反応がみられなかった。また、αNカテニン過剰発現の効果は、カドヘリン/カテニン複合体に重要な Nカドヘリンやβカテニンの過剰発現ではみられないことから、αNカテニンが特異的に樹状突起棘の形態を制御する因子であることを示唆している。つまり、αNカテニンが神経の可塑性と神経ネットワークの再編成に重要な機能を果たしている可能性が明らかとなった。
これらの研究成果は、αNカテニンが in vitro において神経ネットワークの安定性に関与するという重要な知見をもたらしたが、さらにその生理学的機能を明らかにする必要がある。しかし、αNカテニンのノックアウトマウスは致死であるため、彼らはこの致死性をバイパスできる別の手法を用いて、 in vivo における機能を明らかにしようとしている。これらの研究により将来、脳が環境や神経活動の変化に応じて神経ネットワークの再編成をするメカニズムが分子レベルで理解できるかもしれない。
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