αNカテニンが脳形成に果たす役割 |
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私たちのような多細胞生物は、細胞同士の強固な接着なくしては成立し得ない。この細胞接着という根本的な機能を担うのがカドヘリンと呼ばれる分子だ。カドヘリンは細胞膜を貫通するタンパク質で、細胞外では別のカドヘリンと結合して細胞同士を結びつけ、細胞内ではカテニン分子を介して細胞骨格と結合している。カテニンのうちαカテニンは、αEカテニン、αNカテニン、αTカテニンに分類され、カドヘリンの細胞接着能は、これらのαカテニンとの結合によって支えられている。αEカテニンは多くの細胞種で発現しており、欠損すると出生前に致死となることが知られる。
今回、高次構造形成研究グループ(竹市雅俊グループディレクター)の上村允人らは、αNカテニンを欠損したマウスが、脳の特定部位の形態や神経ネットワークの配線に異常を示すことを明らかにした。神経核を形成する細胞の減少、脳室構造の異常、前交連の交差異常などが見られ、中枢神経系におけるαNカテニンの多様な機能を示唆している。この研究は、Developmental Dynamics誌に5月11日付でオンライン先行発表された。
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野生型マウス胎生14.5日目の後脳脳室表層におけるαNカテニンの発現(マゼンタ;αNカテニン、緑;放射状グリア、青;核)。αNカテニンは神経組織全体に発現しているが、特に脳室表層の細胞境界面に濃縮している。また、そこから伸びる一部の放射状グリアもαNカテニンを強く発現している。 |
αNカテニンは、マウスの神経系細胞で広く発現することが知られ、これを欠損するノックアウトマウスでは、小脳のプルキンエ細胞の移動に異常が見られるほか、海馬神経のシナプスが不安定化することなどが、同グループの富樫英研究員、安部健太郎研修員によって報告されていた。上村氏は今回、このノックアウトマウスの解析をさらに詳細に進めた。まず、出生直後のマウスの脳から様々な切片を作成して観察したところ、全体的には大きな異常は無かったものの、線条体の脳室壁が変形している、脳室壁が薄くなり脳室が拡張している、といった局所的な異常が明らかとなった。これらの部位における神経細胞の増殖やアポトーシスの割合に異常は見られなかったため、αNカテニンの欠損が脳室の形態に直接的に影響しているようだった。また、脳弓や乳頭体視床路の神経束が細くなっている、舌下神経核の細胞数が減少している、下オリーブ核の層状構造が乱れているなど、多くの構造的異常が新たに発見された。
続いて、神経線維の走行を調べると、前交連の交差異常が明らかになった。通常、前交連は前嗅核などから伸びた神経線維が束となり、中心線を超えて交差することで形成される。しかし、αNカテニンを欠損したノックアウトマウスでは、神経線維の束状化が抑制され、中心線を超えることは無かった。
これらの異常は、αNカテニンの欠損がカドヘリンの機能を阻害した結果と予想されるが、それぞれの部位におけるαNカテニンの具体的な機能は未だ明らかでない。今回異常が見つかった領域にはαNカテニンを特に強く発現する部位もあったが、一方で、αNカテニンを発現するにもかかわらず、その欠損が異常につながらない領域も多い。上村氏は、「αEカテニンの発現は脳室に限定されており、αNカテニンの欠損を補っているとは考え難い。しかし、αTカテニンの機能は未知の部分が多く、αNカテニンと重複的に機能している可能性もある」とコメントする。「また、αNカテニン欠損マウスは出生後に行動異常を示し、今回見つかった脳の形態異常とどう関連しているのか興味深い。」
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