独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年10月21日


Tubaが細胞間結合を制御する

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理研CDBの大谷哲久研究員(高次構造研究グループ、竹市雅俊グループディレクター)らは、Tubaと呼ばれるGEF(Guanine nucleotide exchange factor)の一種が、上皮細胞の細胞間結合を制御していることを明らかにした。Tubaを欠損すると、上皮細胞に特徴的な細胞の配列が乱れることなどが分かった。この研究は京都大学大学院との共同で行われ、10月9日付けのThe Journal of Cell Biology誌に掲載された。

TubaをRNAiによってノックダウンすると、正常であれば直線的である上皮細胞間の境界領域(左)が曲線的に乱れた(右)。いずれもZO-1の染色によって境界領域を可視化している。

上皮細胞は、互いに密着して蜂の巣のように規則的に配列し、シート状の組織をつくり上げている。このような上皮細胞の形態には、細胞同士を結びつけるカドヘリン分子が重要な役割を果たしている。カドヘリンは、上皮細胞の頂端側(apical-most margin)で、アドヘレンス・ジャンクションと呼ばれる接着構造を形成するが、カドヘリンのこの接着能は、アクチン細胞骨格との相互作用に依存している。このように、アクチン細胞骨格とカドヘリンは協調的に働き、細胞境界の形態を決めているが、それがどのように制御されているのかは良く分かっていない。

今回大谷らは、アクチン細胞骨格を調節することで知られるRhoファミリーGTPaseの一つCdc42と、Cdc42を特異的に活性化するGEF、Tubaに注目して研究を進めてきた。彼らがまず、ヒト大腸上皮細胞Caco2を用いてTubaの局在を調べたところ、ZO-1と呼ばれる分子に依存して、細胞頂端側の接着領域に局在していることが分かった。また、TubaのC末端領域を欠損すると、この局在が失われることから、ZO-1との相互作用にC末端領域が必要であることが示された。

次に、RNAiによってTubaをノックダウンしたところ、直線的であるはずの細胞境界が曲線的に乱れ、細胞表層の張力が低下しているように見えた。そこで、Tubaをノックダウンした際のF-アクチンとE-カドヘリンの局在を調べることにした。すると、頂端側のアドヘレンス・ジャンクションにおける局在に異常は見られなかったが、それより下に位置する側方領域では、通常見られるF-アクチンとE-カドヘリンのネットワーク構造の形成が阻害されていた。また、E-カドヘリンのネットワーク構造とアドヘレンス・ジャンクションとの連結が見られない、F-アクチンが重合せずに拡散する割合が上昇している、などの異常が見られた。

続いて、TubaのターゲットであるCdc42と、Cdc42と相互作用することが知られるN-WASPを阻害したところ、いずれの場合もTubaをノックダウンした場合と同様の異常が観察された。逆に、Cdc42の優位活性型を発現させたり、N-WASPを過剰発現させると、Tuba欠損の表現型が回復することが分かった。

これらの結果から彼らは、頂端側の境界領域に蓄積したTubaが局所的にCdc42を活性化し、続いてCdc42がN-WASPを活性化することで、頂端側におけるアクチンの重合が誘導されると予測している。これによって細胞間結合が安定化すると同時に、側方領域におけるアクチンとカドヘリンのネットワーク構造が誘導され、上皮細胞に特徴的な細胞境界の形態が導かれる、と彼らは考える。

細胞接着を調節するGEFは他にも多く知られ、今後はそれらのGEFとTubaがどのように協調して働き、細胞形態を調節しているのかを探っていきたいと言う。また、「形態形成の際に見られる上皮のリモデリングにTubaがどのように関与しているのかも非常に興味深い」と大谷らはコメントする。



掲載された論文 http://www.jcb.org/cgi/content/abstract/175/1/135

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