ヒト多能性幹細胞の分化誘導系でヒト器官発生を再現する
ヒト多能性幹細胞を用いた再生医療研究の究極の目標とはなんでしょうか。私は、試験管内でヒト多能性幹細胞を分化誘導し、任意の臓器を完全な形で創り上げることが、その究極的な目標の一つであると考えています。これまでに、私たちはヒト多能性幹細胞から中間中胚葉を分化誘導し、そこから糸球体、尿細管、集合管、血管、間質組織を内包する腎臓オルガノイドを作りました。しかし、サイズや構造的複雑性、成熟度の点から実際のヒト腎臓と比較すると、腎臓オルガノイドはまだまだ未完成品であると言わざるを得ません。
当研究室では、この腎臓オルガノイドの作製系をブラッシュアップし、将来的に移植可能なレベルの3次元腎臓組織を試験管内で構築することを目指します。また、私たちの持つ中胚葉・腎臓誘導系は実際の個体発生をモデルとしており、ヒト発生学を研究する魅力的なツールとなり得ます。 ヒト多能性幹細胞から腎臓細胞までの分化誘導過程には、マウス発生学では説明できない現象もあります。分化誘導過程の細胞の挙動を試験管内で詳しく観察することで、ヒトの中胚葉系臓器や腎臓の発生メカニズムを解明し、これをヒト発生学へフィードバックすることを目指します。
研究テーマ
1. 移植可能な腎臓オルガノイドの作製
2. ヒト多能性幹細胞から中胚葉組織への分化制御メカニズムの解明
3. 腎臓オルガノイドをプラットフォームとしたヒト腎臓発生学
主要論文
Takasato M, et al. Generation of kidney organoids from human pluripotent stem cells. Nat Protoc 11, 1681–1692 (2016). doi:10.1038/nprot.2016.098
Takasato M, et al. Kidney organoids from human iPS cells contain multiple lineages and model human nephrogenesis. Nature 526, 564–568 (2015). doi:10.1038/nature15695
Takasato M and Little M H. The origin of the mammalian kidney: implications for recreating the kidney in vitro. Development 142, 1937–1947 (2015). doi: 10.1242/dev.104802
Takasato M, et al. Directing human embryonic stem cell differentiation towards a renal lineage generates a self-organizing kidney. Nat Cell Biol 16, 118–126 (2014). doi:10.1038/ncb2894
Hendry C E, et al. Direct transcriptional reprogramming of adult cells to embryonic nephron progenitors. J Am Soc Nephrol 24, 1424–1434 (2013). doi:10.1681/ASN.2012121143
Takasato M, et al. Trb2, a mouse homolog of tribbles, is dispensable for kidney and mouse development. Biochem Biophys Res Commun 373, 648–652 (2008). doi:10.1016/j.bbrc.2008.06.088